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下妻簡易裁判所 事件番号不詳 判決

主文

被告人曽根清市を罰金四万円に

被告人曽根初夫を罰金弐万円に

処する。

右罰金を完納することができないときは金四百円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

本件公訴事実中被告人曽根清市が被告人曽根初夫と共謀の上本件年少者に時間外労働をさせたという点は無罪。

訴訟費用中証人落合サト、小島縫之助、小磯司郎、〓田信夫、長山恒雄に支給した分は被告人曽根清市の負担、証人諸井勝彦、松本竹蔵、本橋稔、西田昭一に支給した分は被告人曽根初夫の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人曽根清市は、多年来下妻市大字大串七百九十五番地において、曽根工具製作所を経営し、労働者五十数名を使用してオスター型鉄管捻切器製造の個人事業を営む事業主であり、被告人曽根初夫は、右清市の子息で、右製作所工場関係の事務、作業一切を指揮監督し、その予定生産量及び作業計画を樹立して工員の作業につき総括的に指図或は指示を与える地位にあるものなるところ、被告人曽根初夫は昭和三十二年一月四日より同年八月二十七日までの間、被告人曽根清市の事業のために、右工場において、法定の除外理由がないのに、別表記載のとおり、当時いずれも満十八歳にみたない奈良沢定美外二十三名に対し、それぞれ一日八時間を超えて時間外労働をさせたものであり(延合計七、三九〇・三八時間)被告人曽根清市は右時間外労働をさせる計画を知りながらその防止に必要な措置を講ぜず、又右時間外労働をさせている事実を知りながらその是正に必要な措置を講じなかつたものである。

(証拠)

一、被告人曽根清市が多年来判示の場所で曽根工具製作所を経営し、(判示当時)労働者五十数名を使用してオスター型鉄管捻切器製造の個人事業を営む事業主であることは、被告人曽根清市の労働基準監督官に対する供述調書、検察官に対する昭和三十三年一月十六日附供述調書、労働基準監督官の復命書、被告人曽根初夫の検察官に対する昭和三十二年十一月二十日附供述調書によつて認められる。

二、領置に係る(下妻簡易裁判所昭和三十三年領第四号の三二)年令証明書綴、岩田英夫、中島紀夫、栗原福市、近藤文夫、箱守恒夫、金子正、初沢高男、浦沢昌己、落合サトの各戸籍証明書(各本籍地市町長作成)大畑富子の戸籍抄本(真壁郡関城町長作成)判示別表記載の奈良沢定美外二十三名の労働基準監督官に対する各供述調書、領置に係る(前記同領号の一ないし八)賃金計算表(八冊)原朝一郎、小森美春、粟野二三、松本竹蔵、市瀬兼雄、(以上各二通宛)諸井勝彦、風野作次郎、本橋稔の検察官に対する各供述調書、証人坂本実に対する裁判官の尋問調書、被告人曽根清市の労働基準監督官に対する供述調書、被告人曽根初夫の労働基準監督官に対する供述調書、被告人曽根初夫の検察官に対する供述調書、(二通)を彼此照合検討すると、判示別表記載の奈良沢定美外二十三名は、前示曽根工具製作所の工員であり、その生年月日はそれぞれ判示別表記載のとおりであつて、昭和三十二年一月四日より同年八月二十七日までの間、右製作所工場において、当時いずれも満十八歳に満たないにかかわらずそれぞれ別表記載の日時に亘り一日八時間を超えて労働に従事した事実が認められる。

三、前示被告人曽根初夫の労働基準監督官並に検察官に対する各供述調書、被告人曽根清市の検察官に対する供述調書(昭和三十三年一月十六日附)前示原朝一郎、粟野二三、松本竹蔵、市瀬兼雄、諸井勝彦、風野作次郎、本橋稔、小森美春の検察官に対する各供述調書、証人坂本実に対する尋問調書、前示奈良沢定美外二十三名の労働基準監督官に対する各供述調書の記載を彼此照し合わせると、被告人曽根初夫は、被告人曽根清市の子息であり、父清市の前示事業につき父の代理格で工場の事務、作業一切を総括的に指揮監督し、工場における月々の生産につきその予定量を定めて作業上の配分割当を行い、工場における労働者の作業につき指図しあるいは指示を与える立場にあるものであることが認められるから、被告人初夫は前示工場における労働者に対し労働基準法第十条の使用者に該当する事実が認められると共に、前示工場における作業の現場は、被告人初夫の指揮監督の下に職長、職長の下に各部門の責任者として数名の班長(いづれも通称)があつて、これらの者は被告人初夫の決定にかゝる月々の生産目標ないし予定生産量につき被告人初夫から指図を受けて作業を実施するものなるところ、前示年少者の時間外労働の行われた当時の各部門に対する生産割当自体は相当に負担が重く、当時における工場の稼働能力をもつてしては年少者の工員に時間外労働をさせなければ割当てられた生産目標までの生産の達成は期せられない実情にあつたものであること、前示年少者の時間外労働はこのような事情の下に行われ、被告人初夫はその行われている現場を見廻るのでよくこれを知つていながらこれを黙認したものであることが認められ、更に昭和三十三年領第四号の九ないし十六の賃金計算表によると、前示工場の事務所において、本件年少者の時間外労働に関して前示賃金計算表(時間外労働を含む実働時間に対する賃金計算表)のほかに、該時間外労働時間を除いた一日八時間労働に対する賃金計算表を別箇に作成して備付けた事実が認められ、この事実に前示奈良沢定美外二十三名の労働基準監督官に対する各供述調書、前示被告人初夫の労働基準監督官に対する供述調書をあわせ考えると、被告人初夫は、前示奈良沢定美外二十三名の時間外労働につき使用者として前記時間労働を承認したものであることが認められる。

ところで、労働基準法第三十二条の「使用者は……(中略)……労働させてはならない」の労働させるとは、使用者が労働者に対して必ずしも一日八時間以上の労働を具体的に指示して要求したり、または命じたりする場合にかぎらず、労働者が現に時間外労働をしているのを黙認し、またはこれを承認する場合をも含むものと解するのは当然の解釈であろう。そうすると、被告人初夫の前段認定の所為は前示奈良沢定美外二十三名の年少者に前記時間外労働をさせたことに該当するものといわなければならない。

四、被告人曽根清市が判示曽根工具製作所を個人で経営し、その事業主であることは冒頭認定のとおりであり、同被告人の前示労働基準監督官に対する供述書並に検察官に対する供述調書、検察官に対する昭和三十三年一月二十二日附供述調書によると、同被告人は前記年少者の時間外労働の行われている事実を知り、且つそのような時間外労働をさせることが労働基準法違反の行為であることを知つていた事実が認められる。

被告人清市の検察官に対する右(昭和三十三年一月二十二日附)供述調書、同被告人作成の労働基準監督官に対する請書と題する書面四通(昭和二十八年十二月十八日附、昭和三十年七月十二日附、昭和三十一年十二月二日附、昭和三十二年七月二十九日附)原朝一郎の検察官に対する供述調書(昭和三十二年十一月二十日附)栗野二三の検察官に対する供述調書(昭和三十三年一月二十七日附)によると、本件年少者時間外労働の行われる以前既に被告人清市の前示工場において本件同様に年少者の時間外労働が行われ、同被告人は三回に亘つて労働基準監督官から警告を受けたものであり、本件時間外労働が継続的に行われている最中にも亦同様の警告を受けた事実が認められるので、この経路と本件における長期間継続的に行われた年少者の時間外労働の行われた経緯をあわせ考えると、本件使用者が年少者に時間外労働をさせた所為は一時的な偶然のものではなく、少くとも計画的のものであることが推認されると共に被告人清市において右計画を知つていたものであることは上来挙示した証拠を綜合して推認される。そして同被告人が右計画の防止に必要な措置を講じなかつたこと及び本件年少者に時間外労働をさせる使用者の所為を是正するに必要な措置を講じなかつたことは同被告人の検察官に対する右供述調書並に上記認定の違反行為の行われた事実に徴して明かである。

以上により判示事実を認める。

(法令の適用)

被告人曽根初夫の判示所為は労働基準法第三十二条第一項、第百十九条に、被告人曽根清市の判示所為は同法第百二十一条第二項、第三十二条第一項、第百十九条に該当するところ、所定刑中いずれも罰金刑を選択した上罰金等臨時措置法第二条を適用し、いずれも刑法第四十五条の併合罪であるから(被告人等の判示所為は昭和三十二年一月四日より同年八月二十七日までに亘り別表記載のとおりの日時に行われたものであるが、その犯意は本件所為の当初から終りまで継続的のものであることは上記事実認定の経路から推認されるので、本件犯罪につき別表記載奈良沢定美外二十三名に対し一日毎に又は各月毎に一罪を構成するものとは認めず各人毎に全期間を通じて一罪を構成するものと解した)同法第四十八条を適用し、所定罰金額の合算額の範囲内で、被告人清市を罰金四万円に、被告人初夫を罰金二万円に処断し、刑法第十八条を適用して被告人等が右罰金を完納することができないときは金四百円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置することとする。なお、検察官から予備的訴因の追加として被告人清市に対し、同被告人は被告人初夫と共謀の上別表記載の奈良沢定美外二十三名に対し別表記載のとおり時間外労働をさせたものである旨の申立があつたが、右はさきの起訴にかかる起訴事実と同一性を欠くものとして、これをもつて新たに追記訴があつたものと解し、審理の結果その証明がないので、この点については刑事訴訟法第三百三十六条に則り無罪の言渡をすることとする。

よつて主文のとおり判決する。

被告人曽根初夫及び弁護人は、被告人初夫は奈良沢定美外二十三名の年少者に本件時間外労働を具体的に指示しまたは命じた事実はないから、同被告人に対する被告事件は罪とならないものである旨主張するけれども、審理の結果此の点について前記事実認定の理由において説明したとおりである右主張は採用しない。

弁護人は、本件公訴事実は使用者が満十八歳に満たない者につき一日八時間を越えて労働させた事案であるから、労働基準法第六十条第三項違反としての事案であり従つて少年法第三十七条第一項第一号の規定により、公訴は家庭裁判所に提起しなければならないものであるのにこれを簡易裁判所に提起したのは、公訴提起の手続に違反したものであつて無効であり従つて本件公訴は棄却さるべきものであると主張するも、年少者につき、使用者が労働基準法第六十条第三項の定める運営をした場合にその運営の範囲を超えて所定の時間外労働をさせた場合は右法条第三項違反であつて、右法条第三項の定める運営によらないで時間外労働をさせた場合は同法第三十二条第一項の違反と解すべく、本件起訴にかかる事実は右後者の場合に該当することが明かであるから本件は簡易裁判所にその管轄があり、従つて当裁判所に提起した本件公訴はその手続規定に違反しないと解する。(別表省略)(昭和三四年五月九日下妻簡易裁判所)

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